さらば、わが愛/覇王別姫 | |
---|---|
|
|
監督 | チェン・カイコー |
主な俳優 | レスリー・チャン/チャン・フォンイー/コン・リー/グォ・ヨウ |
公開日 | 1994年2月 |
オススメ度 |
1993年 パルム・ドール受賞作品 |
国 | 香港・中国合作 |
公式サイト | 無 |
感想
とにかく、一言、素晴らしい映画。
知人に「あの映画は最高だ」と言われていて、ずっと気になってた映画。随分時間が経った後、やっとレンタルして観てみた。
約3時間の超大作。
テーマの重さ、丁寧な脚本、俳優達の素晴らしい演技、そして怪しくも美しい圧倒的な色彩美。。。最初からグイグイと引き込まれていった。
深みのある映画だと思う。
この映画から醸し出される独特な雰囲気の映画はハリウッドでは創れないだろうと思う。アジア独特の世界観。
この映画を観てからレスリー・チャンのファンになり、コン・リーのファンになった。そしてこの映画をキッカケに香港・中国映画をよく観るようになった。
映画の舞台は1930年代の北京。 日中戦争や文化大革命を背景に時代に翻弄され続けた京劇俳優達の人生を描いている。そして彼らに共産党の波が押し寄せ、この京劇俳優達の絆をバラバラにさせていった近代中国史が根底に描かれている。
段小樓に思いを寄せても菊仙にはかなわない。。。心身ともに傷ついた程蝶衣。そこへ段々と文化大革命の足音が聴こえ、彼等3人の運命の歯車が狂い始める。。。
非常に驚いたのは、日本人将校を前に京劇を披露したシーンと、中国人を前に京劇を披露したシーンの対比。
この時代の事だから日本軍を必要以上に「悪」として描いているのかと思ったけれど、そんな事はサラリと短めに描かれ、逆に京劇という芸術に敬意を払って静かに観劇しているのが日本軍であり、舞台に敬意を払っていないのが同じ中国人。。。というシーンだった。(当時は「中国」と1つになってないけれど)
また、裁判シーンでの「あるセリフ」が、「こう言うセリフを言わせても大丈夫なのか? よく中国がOKしたな〜」と思ったほど意外だった。
そして「文化大革命」の悲惨さ。。。
「堕落の象徴」として京劇の俳優達が弾圧されていき、自己批判を求めらていくシーンを見ると、如何に「言論の自由」が有り難いかがわかる。
日本でもアーティストに左翼系の人が多いけれど、実は真っ先に表現者が弾圧されるのを知っているのかしら? それか、広告塔にさせられるのに。。。
それからレスリー・チャンが京劇を演じている時の北京語の美しさにうっとりする。知人もそれを盛んに言っていた。私は北京語が全く解らないので、発音がキレイと言っているのではなくて、話した時の「音の響き」がとても美しかった。。。
レスリー・チャンは「優雅」で、また「独特な抑揚」で話し、それは「京劇」で女性が話す際の「様式美」なのだろうと思う。
映画の序盤に京劇俳優養成所でのシーンが多くあるが、非常に厳しい訓練で、子供の頃から過酷な修行を積み重ねているからこそ、あのような完成度の高い京劇を演じることができるのかもしれない。。。もちろん、現代の養成所の仕組みは知らないけれど。「京劇」が日本で演じられるという宣伝があるたびに、この「さらば、わが愛、覇王別姫」を思い出す。
そしてコン・リーの「凛」とした美しさ。
気が強く、芯があり、包容力を持った大人の女性がそこにいた。彼女も素晴らしい演技を魅せ、混沌とした時代に生きる逞しくもあり、悲劇的な人生を演じ切った。
とにかく、長時間の映画。しかし、チェン・カイコー監督は、編集後に「もう1分も削れない」と言ったそうだ。
本当にそうだと思う。
それにしても残念なのはレスリー・チャンがもうこの世にいないこと。。。
本当に惜しい。 彼の作品はほぼ観たが、どれも素晴らしい演技だ。そして言うまでも無く、この「さらば、わが愛/覇王別姫」が彼にとっての最高傑作だと思う。
約3時間にも及ぶ映画にもかかわらず、全く飽きない類い稀な映画。
残念なところ
- 無い! が、強いてあげるとすると、日本軍による処刑シーン。
さらりと描かかれていて、「何故そのような行為に及んだのか?」などの理由が無く、単に日中戦争、文化大革命時代の映画だから、わざわざ日本軍が残虐だったと印象づけるシーンも入れる必要があったのかもしれないけれど。。。 とは言うものの執拗にそういうシーンがあるわけでは無いのでそこまで気にはならない。
その他いろいろ
- レスリー・チャンはどんな役でも素晴らしい演技ができる俳優。
彼の死は本当に惜しい。。。
アイドルとしてスターダムにのし上がった後、俳優に。 - 監督のチェン・カイコーの生い立ちを先ほどwikiで読んでみたら、驚いた事に、この「文化大革命」の最中、反革命分子とされていた父親を糾弾したそう。。。
- この事は「子供達の王様」(1987年)で描かれているらしく、いつか観て見たい。
- チェン・カイコー著書「私の紅衛兵時代-ある映画監督の青春」も興味深い。
とにかく、以来、私はこの映画を基準に映画を判断するように無意識になってる。それだけ私にとっては深く沁み入る映画。
人にもよるし、事実、私の知り合いにこの映画を薦めても今ひとつの反応の人が1人いた。
まだ観ていない方は是非、この映画を観てはいかが?